教員へのインタビュー様々な国や時代の歴史を 研究する本郷先生が語る “社会に貢献すること”とは?

関西学院大学経済学部教授 本郷 亮

本郷 亮(ほんごう りょう)
1972年大阪市生まれ
博士(経済学)
著書に『ピグーの思想と経済学』(名古屋大学出版会、2007年:経済学史学会研究奨励賞受賞)、訳書に『ピグー財政学』(名古屋大学出版会:2019年)、等。
『社会貢献』と聞くと、なんだか壮大でとても大変なことをイメージしていませんか?
「歴史を学んで過去を見つめ直したり、知的好奇心を大事にして自由な研究をすることが社会課題の解決へ貢献することになるんです。」
そう話してくれたのは、経済学の歴史を研究し続け、現在は関西学院大学経済学部の教授を務めている関西学院大学経済学部の先輩、本郷亮先生。
本郷先生いわく、社会で生きていくために大切なスキルは“自主的に一生学び続けること”だそう。

そんな本郷先生は、学ぶことの楽しさを大学時代に実際に経験することができるような授業を心がけています。
資料探しのために海外の大学へ1人で訪れたり、この春に防災士の資格を取得して兵庫県防災士会に入会するなど、素晴らしい行動力を持っている本郷先生に「社会貢献につながる大学での学び」について教えていただきました。

様々な土地へ足を運び、社会課題を肌で感じる

本郷先生は、どのような社会課題に関心をもっているのでしょうか?
うーん。難しい質問ですね。笑
まず、私の専門分野からお話したいと思います。
私の専門分野は、『経済学史』です。簡単に言えば、経済学の歴史を研究しています。
4大学合同ゼミ(同志社・奈良女子・南山・関西学院) 2019年11月 関西学院大学図書館ホールにて
4大学合同ゼミ(同志社・奈良女子・南山・関西学院):2019年11月関西学院大学図書館ホールにて
歴史の研究をされているんですね!それでは、そもそも現代の社会問題を直接的に研究しているわけではないということなのでしょうか?
おっしゃるとおりです。むしろ、歴史の研究において現代の思想は邪魔になってしまうんですよ。
例えば、江戸時代のときの経済について考える時、現代の人が持っている常識や考え方は忘れなければなりません。そうしなければ、当時の人々の思想をありのままに理解することはできないんです。
そういう意味では、過去のことはもちろん、海外の経済について学ぶとなると全く頭を切り替えなければならなくなるんです。
とにかく現代の私達の考えを持ち込んではダメなんですね。
そうなんです。経済学って、それぞれの時代の社会課題と戦いながら、格闘しながら発展してきたものなんです。
だから私は、昔の社会課題について考えていると言えますね!2つ挙げるならば、『1930年代の世界恐慌などの失業問題』と『社会保障制度の発展』。
私は20世紀前半のイギリスを長年研究してきたのですが、ちょうどこの時期から上記のような課題が現れ始めました。ちょうど100年前くらいですね。そのため、常に私は間接的に現代の社会課題に向き合ってるようなものなんですよ。
昔の社会問題と向き合うからこそ、現代の社会課題を見つめ直すきっかけになることもありますよね!とても大切なことだと思います。
そもそも、どうしてこれらの社会課題に関心をもったのでしょうか。
この話をするには過去に遡るのですが、、、
実は私が若い頃に最初に着任した大学は、青森県弘前市の大学だったんです。しかも、経済学部ではなく社会福祉学部でした。
私は8年間そこに勤めて、児童・高齢者・障がい者の福祉政策の実情や、日本の社会保障制度(年金・医療・生活保護等々)の全体像を知るようになりました。社会福祉学部にいなければ、知ることはなかったと思います。
しかも、青森県は失業率がとても高く、一人当たり県民所得がとても低いんです。
経済的に物凄く弱い県ということなんですね。
そういうことですね。『日本』は、非常に多様な国です。そのため、なんとなく都会だけを見て『日本』を考えるのは大きな間違いと言えます。
私は青森県に8年いたおかげで、地方の抱える社会課題の深刻さに本当の意味で気づくことが出来たと思います。
ただ話を聞くよりも、実際に肌で感じる方がより実感できますよね。
他にも青森だからこそ経験できたことはありますか?
もちろんです。
青森は非常に自然豊かなところなので、土を耕して畑を作り、家族で色々な野菜を育てていました。食料を生産するという面も大事ですが、それだけでなく私は、『農』を取り入れたライフスタイル自体にさまざまな価値を見出してきました。
例えば環境保護や、人の心を癒す力などです。とても気に入ったので、今でも家庭菜園を営んでいます。また狩猟の魅力も知り、シカやイノシシを獲りに今でもよく仲間と山へ行きます。
青森の環境だからこそ学べたことがたくさんあるんですね。
青森で実感した社会課題に、どのような方法で迫っているのでしょうか。
一言で言えば『座学』です。笑
経済学の歴史を語ろうとすれば、それぞれの時代を代表する偉大な経済学者たちの主著を熟読しなければならないんです。経済学史研究では、とにかく文献(本や論文)を読むこと。これに尽きます。
先ほども言ったように、私は20世紀前半のイギリスを代表する経済学者A.C.ピグーという人物について長年研究してきたので、100年ぐらい昔の古い英語文献を読むことが中心になります。座学の極致と言っていい。加えて、とても地味。笑
歴史研究というのは今も昔もそういうものです。文系の学問では、おおむねそうかもしれませんが。
膨大な知識が必要なんですね。尊敬します。
フィールドワークなどは行わないのでしょうか?
経済学史研究では、資料探しの旅が唯一のフィールドワーク的活動と言えるかもしれないですね。笑
前述のピグーを研究しているとき、一人ではるばる(ピグーが教授をしていた)ケンブリッジ大学の図書館を訪ね、保管されている彼の手書きの講義ノートや手紙を調べました。そこには貴重な資料が多く所蔵されているので、結局3度も足を運びましたね。また、ピグーの出身高校(ロンドンから北にあるハロウ校)を訪ねて、そこに残っている写真や文集などを調査したこともあります。
現地の高校にまで調査に行くという研究者は珍しいと思います。貴重な資料がある可能性があるならば、それを求めて地の果てまでも行くのが研究者魂。まだ誰も知らない資料を発掘し、それを学会で発表するのは、とても誇らしい気持ちになります。

経済学は金儲けのためではなく、社会問題解決のための学問である

経済学はどのように役に立つと思いますか?
現代社会を考えるうえで、『経済』の視点は絶対に欠かせないです。
ほとんどすべての社会問題を語るうえで、そうだと言えるのではないでしょうか。
貧困、失業や景気の問題、金融、政府財政、これからの社会保障、労働問題、貿易・・・。どの分野でも経済学が関わってきます。
また、経済学とは関係がなさそうな『医療』の分野についても、経済観念のない人が医療を語るのは現実的ではないです。コロナ対策もそう。感染が怖いからといってお店を全て閉めると経済が本当に回らなくなってしまって他にも支障が出てしまうことは容易に想像できますよね。
戦争でさえそうです。その原因が経済領域にあることは珍しくありません。だから世界平和を望むならば、実は世界経済の知識が不可欠です。
経済学を学ぶことによって、経済領域の諸問題を体系的に理解し、それを通じて様々な社会課題に立ち向かうことができるのです。
特に社会のリーダーを目指す人にとって、とても大切な知識ですね。
経済学はどのような人が向いてるのでしょうか?
そうですね。
経済学は、私的なお金儲けにも役に立つでしょうし、実際、学生の多くは卒業後のビジネスライフに役立てるために経済学を学んでいます。
しかしそのような目的のためだけならば、「商学部」に行った方が合理的かもしれません。経済学は、社会問題解決のための学問という性格が強いのです。
そもそも「経済」という2文字の語源は、『経世済民(けいせいさいみん、世を経(おさ)め民を済(すく)う)』あるいは『経国済民(けいこくさいみん)』という古い言葉です。
すなわち経済学は、私的なお金儲けのための学問というより、社会問題解決のための学問という性格が強い。経済学を学ぶ人はそのような志を忘れないで欲しいです。
経済学部はとても広い視野を持った学部なのですね。

自由な思想で、自由な研究をする

青森の経験を、経済学部の教育にどのように活かしているのでしょうか。
私が担当する『近代経済学史』という講義では、19世紀半ば以降の主にアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスなどの経済学説を扱っていて、さまざまな経済理論・思想を紹介しています。
他方、私のゼミでは、むろん私の専門である経済学史を研究テーマとしていますが、実はそれだけをしているわけではありません。
というのも、アカデミックな専門教育は大学である以上、確かに基本的に大切です。
しかし、学部生の多くは一般企業等に就職するのであり、大学院に進み研究者を目指すわけではない。それゆえ、専門的学術論文の執筆などの狭い意味でのアカデミック・スキルだけでは、大学生の現実的ニーズを満たすことはできない、と私は考えています。
そこで私は、一般の社会生活で役立つ実際的な知的スキルの修得も大切にしています。
最も大事なことは、生涯教育である、と私は信じています。
他ゼミとのディベートの様子2018年12月
他ゼミとのディベートの様子:2018年12月
『生涯教育』。関西学院大学の教育目標の一つですよね。
そのとおりです。言い換えれば、自主的に一生学び続ける人を育てることです。その実現のために最も重要なのは、学ぶことの楽しさを大学時代に実際に経験することだと思います。
大多数の人にとって高校までは『学ぶこと=受験勉強』というイメージではないでしょうか。しかし大学からはもっと自由な『学び』、一種の自己表現というか自己実現としての『学び』が可能になるんです。
あれが好き、これが好き、といった純粋な知的好奇心こそが学びの原動力になりますよね!
そのため私のゼミでは、経済学史の研究をすべての学生に押し付けず、一定の範囲内で学生に自由にテーマを選んでもらい、私と議論しながら自主的に学んでもらうようにしています。
ゼミで現地に調査旅行に行ったりもするんですよ。2019年秋には(地域振興の研究のために)兵庫県豊岡市へ行きましたが、その後はコロナ禍で中断しています。
ただし研究ですから、ありきたりのものではダメ。何かオリジナリティーを感じさせるものでないといけませんし、しっかりした文献的根拠に基づいたものでないといけません。
調査旅行 兵庫県豊岡市 2019年9月
調査旅行:兵庫県豊岡市2019年9月
とても面白そうなゼミですね!学生ものびのびと研究できそうです。
具体的にはどんな研究があったのですか?
例えば、昨年末だと、ゼミの学生たちと共に春から校舎の屋上で日本ミツバチの養蜂をさせて欲しいと大学と交渉しました。
残念ながら認められなくて大変残念でしたが、研究計画を改良しつつ、実現に向けて粘り強く交渉を続けたいと思います。
また、私はこの春に防災士の資格を取得し、兵庫県防災士会に入会しました。
実は兵庫県は阪神淡路大震災(1995年)の経験もあり、特に市民レベルにおける防災の取り組みでは全国で最も進んでいます。
そのような地の利を生かし、『防災』と地域経済振興を組み合わせた研究も模索中です。これからも学生と共に色々なものにチャレンジしていきたいと思います!
本郷ゼミ ゼミ生
色々なことに挑戦されている本郷先生、かっこいいです!
最後に、受験生に向けて関西学院大学経済学部をおすすめする理由を教えてください。
私は学生時代、関西学院大学経済学部で様々な重要なものを得ました。
そこで素晴らしい先生方と出会い、貪欲に多くを学び、成長し、自分の人生を切り拓きました。
だから自信をもって、おすすめします。
第1に、ゼミ教育を重視していること。ゼミとは20名程度からなるクラスのことです。
関西学院大学の経済学部にはたくさんの教員がいて、各々がその分野の最前線で研究活動を行っているのですが、2年生以降の学生は自分で選んだ教員のもとで専門的な指導を受けることができます。
ゼミは大学教育の『かなめ』です。また、ゼミ活動を通じて一生の友を得ることもあります。
結局、人生を方向付けるのは『出会い』です。私のゼミでは卒業後に同窓会もあります。
第2に、日本でも有数の歴史と伝統を誇る学部であること。
関西学院大学の自由な校風とキャンパスの美しさは全国屈指です。関学経済学部は1934年に旧制大学の『商経学部』として誕生して以来、関西圏の、また日本の、経済社会を支える人材を多数輩出してきました。
関西学院大学の経済学部は今後もそのような重要な役割を担い続けるであろう、非常に魅力的な学びの場であると言えます。

message

本郷先生、ありがとうございました!

それぞれの時代の社会課題と格闘しながら発展してきた経済学。

経済学を学ぶことで、現代社会で起きている事柄を体系的に理解し、課題に立ち向かうことができるようになります。

現代社会を考えるうえで、『経済』の視点は絶対に欠かせません。

研究者として、歴史的な観点から経済学にアプローチし続ける一方
教育者としては、「自主的に一生学び続ける人」を育てることを大切にしている本郷先生。

関西学院大学経済学部で、学問の広さと深さを味わいつつ、学びの楽しさを体験してみませんか。